皆に聞いたらゾロはお風呂だって言ってた。
だからお風呂場の扉の前でしゃがんで待ってる事にした。
暫く待っていると扉が開き、タオルを頭に被ってガシガシ荒く掻き拭きながらゾロが出てきた。
蹲る様に小さくなって待っていたあたしに気づき、視線を向けてきた。
「なーにやってんだこんな所で」
「覗き…」
「禁煙したら全部見れんじゃねェか」
「……なんでそんな禁煙禁煙って言うの…」
小さく溜息を吐いたゾロは、の前でしゃがむと顔を顰めた。
「お前ェまァだ吸ってやがんのか……」
「付き合う前からなのに、何で行き成りヤメロって言うの?」
「臭ェし苦ェからだって言っただろ…」
「嘘だ。絶対それだけじゃない」
臭いとか苦いとか、それくらいなら前からだから今更言うなんておかしい。
しかも喧嘩なんだかなんだか分からない意味の分からない距離をとられて、触れてもくれない触らせてもくれない…
一気に淋しさが限界に達した。
「はァ……別に意地悪く言ってるワケじゃねェんだぜ…」
を見ればションボリと俯いている。
別におれだって何も害がなきゃ、臭かろうが苦かろうが我慢してやるが、煙草はなァ……
ありゃ体に悪すぎる。
刀ブン回して怪我しまくってるおれが言うのもなんだが、こいつにはなるべく怪我も病気もしてもらいたくはねェ。
世界一の剣豪になった時にいてもらわねェと困る。
おれより1日でも長く生きててもらわねェと困る。
自分の女をこう言うのもなんだが……は可愛い女だ。
おれが志半ばだろうが死んだとしても、直ぐに気に入るヤツが出来るだろ。
けどよ、おれは駄目だ。
コイツじゃねェと駄目だし…
大袈裟かもしれねェが、コイツがいなきゃ生きていけねェ。
それだけ惚れている。
だからこそ強制的な禁煙を言ったが、やめる気配が無い。
それどころか、あのクソコックと仲良さ気にしてやがって…
お前ェとの先を見てるからこそ言ったが、全くわかっちゃいねェな……
「…ゾロ…?」
「おれはよ、お前ェにとことん惚れてんだ。……だからおれの為にやめてくれねェか」
一ヶ月ぶりに聞いたゾロの惚れているという言葉。
先程のサンジに言われた言葉が頭に過ぎるが、それとは比べ物にならない程に自分の心がざわめいているのがわかる。
意地悪で言ってるわけじゃなく、自分の為にやめてくれ。そう言われ、今までイライラしてた気持ちが少し治まった。
ゾロはいつもそうだ。
欲しい言葉とか、知りたい事、もっともっと話さなきゃいけない事は沢山あるのに、いつも言葉が少ない。
そんなの解ってた筈なのに、頭に血が上って怒ってキレて……
でもさっきの言葉でわかった、きっとゾロは……
「………おれの死ぬ瞬間まで生きてろ。」
優しく笑った。
その表情にあたしは動けなくなった。
一ヶ月ぶりだからとかそんなんじゃない。
あたしはまた……悔しいながらに……
恋をした。
悔しいからなのか、ゾロの気持ちが伝わったからなのかわからないけど、胸が苦しくなって何故か涙が込み上げてきたのを必死に堪えた。
考えても言わなかったあたしの脳が、ゾロを想う気持ちで心が言わせたんだと思う……
「……ヤメ…ル……」
本当、後々思えば信じられない言葉。
「んな顔すんな……どっだけ我慢してっと思ってんだ……」
そう言って優しく笑った顔が少し歪んだ。
歪んだ顔が見る見る近づいてきて、一ヶ月ぶりに唇が……触れた。
嬉しい筈なのに、あたしは身を退いて唇を離し「ダメ」と呟いていた。
禁煙なんてしないと決めていたあたしの脳が、不思議と禁煙してないからダメだと反応し拒否をしてしまっていた。
そんな行動にゾロは僅かに目を見開き、あたし自身も同じ様に僅かに見開いていた。
そうか。
あたしは自慢じゃないが意思は強い方だと思う(頑固とも言う)。
“これだ”と決めたら余程じゃなきゃ譲らないし、諦めない。
今まで“絶対禁煙しない”って思ってたから出来なかったが、“絶対禁煙する”って決めたらそうするまで意志を通す。
だから嬉しくても、久し振りでもゾロを拒否しちゃったのか……
「まだ、ヤメれてないから。」
ゾロを押し返し、あたしは目を見てちゃんとに言った。
そして、自分でも驚くくらいの微笑を浮かべると、ゾロが頭を優しく撫でてくれた。
あたしの性格をコイツはよく知っている。
だから今はそれ以上あたしに触れなかった。
“あたしはあたしの意思で禁煙を決めた。”そう感じてくれたんだと思う。
そしてフト思い出した。
「……ぁ…今日サンジ来るって言ってたわ…」
「クソコックが?……何処に…」
「あの部屋」
「そりゃ洒落んなんねェだろ……」
そりゃごもっともだ。
なんせヤル為に来るしね……
そんな事口が裂けても言えないでしょ。欲求不満だからですとか…
「……」
「……はァ…お前ェそのまま風呂入って部屋来い」
「女部屋行こうと思ったんだけど…」
「それじゃ解決になんねェだろうが…」
「なんの解決だ……」
返答は無かった。
促されるままあたしはお風呂に入りながら、どういうつもりなのか考えてみた。
まぁ、ゾロが何か言ってくれるんだろうとか、そんな簡単な事だろうと思いそれしか考えつかなかったが……
部屋に戻った時、思わず“ォィォィ”とツッコミたくなった。
一ヶ月間禁欲して、禁煙しようと決めたのがさっき。
だから禁煙していないから、禁欲は暫く続くわけで……
なんでこんな状況なんだ。オイ。
「ちょっとさ、話し違うんじゃないの?」
あたしは何故かゾロに組み敷かれ、首筋へ口付けをされていた。
「アイツに見せつけりゃ手も出さなくなんだろ」
確かにとは思ったが、そこまでするか?とも思った。
解決って、その事かよと……
口ではそんな口調だが、禁欲生活が続き身体が反応しない訳ないわけで……
普通に会話する声も、若干息が混じり上がってきた。
そんな時、コツコツと此方へ向かってくる足音が聞こえ、扉の前でそれが止まった。
そしてコンコンとノックする音と並ぶように、「いる?」と言うサンジの声。
“いるにはいるが、こんな状況なんですけどーーー!!”
返答に困っていると、耳元で返事をしろと低く凄んだ様な声色で囁いてきた。
「……う、うん…いる……に………はぅ……ッん…ちょッ」
返事に被せるように、ゾロはの身体へと手を這わせ肌蹴させた胸元へを顔を埋め舌を這わせた。
ビクッと身体を跳ねさせ反応したは、言葉も遮られ甘く声を上げる。
密かにニヤリと笑ったゾロは、そのまま愛撫を続けの言葉を遮り続ける。
部屋に足を踏み入れた瞬間のその光景。
ベッドへ倒され、衣類を乱されたに覆いかぶさる様に喰い付いているゾロ。
憂いをなし揺れる瞳で聞いた事の無い甘く切ない鳴き声に、サンジはたじろぎ表情と共に体を固まらせた。
「悪ィな。コイツはおれの女だ。手ェ出すんじゃねェぜ」
それだけ言うと、胸元へ自分のものであると言う印を付けると、再び首筋を舐め上げそのままへ深く口付けた。
「はァ……そこまでするかねェ…」
バリバリと頭を掻きながら呟き出て行ってしまったサンジは、大きな溜息を残していった。
まぁ、解ってたけどね。
ちゃんと話して戻った時のアイツの目、マジ怖かったし?
「……ったく。やってらんねェー…」
再びとゾロ。。
「ちょ…待ッ……」
見せ付ける為ならもう十分だろうと、待ったをかける。
しかし続けられるゾロの行為に、大人しくしていたは痺れ感覚がなくなって来た意識を必死に繋ぎ止めていた。
「やべェ……止まんねェ…」
弄り撫でる手が内股へと下りてき、徐々にの中心へと近づくと手を滑らせ腰を伝い下着の下へと滑り込ませた時……
――ドコン!!
後頭部に放たれた回し蹴りでゾロはベッドへ沈んだ。
息を荒く肩を上下させたは、肌蹴た胸元を簡単に整え沈んだゾロを眉をピクリと上げ見おろしていた。
「約束が違う。それと、なんでサンジにこんなの見せたのよ」
「あァ?言ったままだろ。」
蹴られた頭を摩りながら言葉を吐き捨てるかの様に言い、首を左右にコキコキと鳴らす。
「だからって、あんな……口で言えば解るでしょ!!」
「解んねェから見せてやったんだろが」
「言ってもいないのに!!……ぁ……」
怒鳴った顔が、瞬間マヌケな表情に変わった。
そして、暫く固まっていたは、「はは〜ん」とニヤリと笑いゾロを指さした。
「ゾロさん、嫉妬?」
「こんな時までアイツの真似か……」
「ゾロさん、嫉妬?」
「…チッ………悪ィかよ…」
まぁ、確かに此処一ヶ月サンジと2人でいる時のが多かったしねぇ……
それにしても、まさかゾロが嫉妬とか……プッ。
なーんも動じないとか思ってたわ。別に女の1人や2人ってね。
でもそれも、さっき言ってくれた言葉を信じるなら、あたしのしてた事と、しようとしてた事も含め、浮気って思われても仕方ないのかな。
未遂だったけど、サンジを受け入れようとか、ちょっと思っちゃったし?
ぁー、セーフセーフ。
欲求不満に流されてなくて良かった、ゾロの話し聞きに行って良かったわ。
ゾロの事、心底愛してるって確認も出来たしね。
「ゾロ」
「あァ?」
「ごめんね?」
流石に、こればっかはあたしが完全に悪いよね。
煙草の事も、ヤメるって言ったあたしに気遣ってか、灰皿事綺麗に片されてて、喚起もしてくれたのか空気が淀んでいなかった。
片付けなんてしないコイツなのに、ちゃんと考えてくれてるんだなぁ……なんて、思ってしまった。
「愛してる」
「あァ」
「しょうがないから、アンタより1日でも長く生きてあげるわよ。」
「あァ…」
「でも。」
「アンタが死んだら、あたしも生きてけないから、死ぬんじゃないよ」
は優しく微笑んだ。
ゾロは目蓋を閉じ、フッと鼻を鳴らすとゆっくりと目蓋を開きを見つめた。
「そう易々死にやしねェよ」
「安心した。あたし早死にする気ないからね」
口角を上げたゾロの顔が近づいてきた。きっとこのまま……
――バキッ!!
なーんて、甘いわ。
近づいた横っ面を、グーで殴ってやった。
あたしをナメんなよ。
“こう”と決めたら、そうなるまで曲げないんだよ。
「……てめェ……」
「禁煙するまで、指一本触れない約束。」
「ヤラねェって言っただけだろ!!」
怒りマークを付けたゾロは瞬時に顔を向けてきた。
フンと鼻で言葉を蹴散らすと、一回り大きい声を出してやった。
「触って来なかったのはアンタでしょ!
男ならそれを貫け、阿呆!!!」
グッと息を飲み込んだゾロは、睨んだあたしを睨み返すが溜息と共に肩を落とした。
「……しょうがねェ……また暫く禁欲か……」
なんだか少し可哀想になってくるけど、それはあたしだって同じだ。
禁煙しろとか、おれより長く生きろとか、そんなそっちの要望に応えてやるんだから、ちっとはゾロにも苦しんで貰わないとね……
割りに合わないっての。
「今日から毎日此処で寝なさいよ?
じゃなきゃ、またサンジ来るかもよ?」
「グッ……」
「勿論、指一本でも触れてみなさい。
あたしがアンタを絞殺してあげるから……」
フフフと黒く笑ってみれば、ゾロはゲンナリとしてしまった。
あたしだってゲンナリだっての……
好きな男が隣にいて、何も出来ないとか、まぁじゲンナリ。。。
「まぁ、あれよ。あたしの性格解ってんでしょ」
「頑固。」
「意思が固いと言いなさいよ……」
「んじゃ、本当にヤメれんだな」
「取り合えず持ってた煙草は捨てたわよ。買い置きはサンジにあげとくわ」
サンジの名前にピクリと眉が跳ねたゾロの反応に、思わずプッと吹き出してしまった。
それに気づいたゾロはあたしの額を強く押して、ベッドへ背をつけ寝転がされた。
クスクス笑いながら荒れた布団へ潜り込ませると、座ったままのゾロへ笑いを止め見上げる。
「後1ヶ月我慢して。あたし絶対ヤメるから。」
「……一ヶ月か……」
暫く沈黙し、ゾロは何か考えているようだった。
「何よ、我慢出来ないって言うの?」
「否。……解禁されたら、どうお前ェを甚振ってやろうか考えてた」
「変態。」
「どうとでも言え。2ヶ月禁欲とか、有りえねェっての。」
「あたしは禁欲と禁煙だっての……」
「…………頑張れよ。」
「………あんたもね。」
溜息混じりに布団に潜り込んだゾロとあたしは、抱き合う事無く肩を並べて寝た。
恋人に有るまじき状態の寝方に、溜息しかでないが……
やがてお互い眠りに入ると、どちらからともなく寄り添い、抱き合う。
寝ている間くらいはヨシとするかと、溜息混じりに表情を緩ませたのは、次の日の朝の事だった。
そして一ヵ月後……
あたしはあれから一本も吸わず、一本も触れさせず過ごしていた。
イライラとムラムラにひたすら耐えてきた。
最近イライラは無くなってきたのは、少し喫煙に対しての依存が無くなってきたせいなのだろうか……
それでも、口淋しいのは変わらず、一ヶ月前あの出来事があった次の朝、サンジから飴を貰った。
それを舐めて、無くなればまた作って貰ってまた舐めてを繰り返していた。
そして気づいてしまった。
体重が3キロ増えている。
体重計に乗ったあたしは、悲鳴を上げた。
慌てて駆けつけたゾロには、ちょぉ呆れられたが、あたしにしたら大問題だ。
3キロって……3キロって……
確かに煙草ヤメて暫くしたら、ご飯が美味しく感じて食べ捲くってた気がする。
そして普段から舐めてる飴も、カロリーが無い訳がないわけで……
毎日とんでもない数舐めてるし、そりゃ太ってもしょうがないと思うけど……
3キロって……
苦笑いするゾロの肩を力いっぱい叩き掴んだあたしは、低い低い声を上げた。
「……一緒に筋トレする……」
「筋トレすんのは構わねェが……原因はストレスなんだろ?」
「多分……」
「んじゃ、約束の一ヶ月だ。」
「へ?へ!?ぇぇっぇぇえええ!?!?」
そのままあたしは……
部屋に連れこまれました。
禁欲2ヶ月、よくもまぁ我慢しましたと褒めてあげたいけど……
「いい加減にしろよ!このエロマリモォォーーー!!!」
「まァだそんな元気あんのか。んじゃ、まだイけんな。」
「ひィィィィ……もう…勘弁……して……」
「ククッ……」
楽しそうに響いた声にあたしは若干の恐怖が芽生えた。
あの時言ってた『どう甚振ってやろうか』って言葉……
まぁじで考えてたのか、夕ご飯まで放してくれなかった。
腰は砕けて立てなくなって……
結局部屋で食事をするハメになったのは言うまでもない。
でもまぁ……
次の日体重計乗ったら、1キロ減ってたからいっかぁv
Fin
++ 背景:** macherie *** 様 ++
NO.028 Without you
なんかエライ長くなってしまいました。
題材にした“禁煙”ですが、煙草駄目ですね。
やめようと思っても、意思が弱いとやめれません。
ストレスもそうだし、イライラしてどうしょうもなくなってしまいます。
太るし。ホント……
葵瑠もゾロにこんな風に言ってもらえたらヤメれるかもしれない *ノノ
煙草を吸いながら、苦笑いしながら書きました。
なんでこんな話しにしたんだろう……
とっても謎でございます。
☆お付き合い頂き、ありがとうございましたv☆